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今日のテーマは「著名な作曲家たちの「下書き鉛筆」の裏の役割」についてです。
<肖像画の陰に隠された「もう一本の主役」>
前回の記事では、ベートーヴェンの有名な肖像画に描かれた筆記具が、「永続的な記録のためのペン(インク)」であり、清書に使われた道具だと書いてきました。公式な楽譜には、消せないインクが使われるのが当然だったからです。
しかし、偉大な作曲家たちが楽譜に向かう時、彼らのペンケースには「もう一本の、描かれない主役」が必ず存在しました。それが、私たちもよく知る「鉛筆(黒鉛)」です。
肖像画には華々しく描かれない、地味な道具。しかし、モーツァルト、ベートーヴェン、リストといった天才たちが「創造の自由」を得るためには、この鉛筆の力が必要不可欠でした。
この記事では、「清書」を支えたペンに対し、「創作」を支えた鉛筆の真の役割と、彼らがなぜその道具を手放せなかったのかという「裏の役割」に迫ります。
1.鉛筆の真の価値:「消せる」自由が生んだ創造性

なぜ、当時の作曲家たちは、羽ペンではなく鉛筆を「下書き」や「訂正」に用いる必要があったのでしょうか?
(1)創作のスピードと思考を止めない道具
羽ペンはインク壺に浸す手間があり、さらに書き損じるとナイフで紙の表面を削り取る手間が必要でした。これは、閃き(インスピレーション)を瞬時に捉えたい天才たちにとって、致命的な時間のロスです。
鉛筆は、その点、思考と同じスピードでアイデアを書き出すことができました。
(2)失敗を恐れない心理的安全性
鉛筆が作曲家に与えた最大の恩恵は、「消せる」という心理的な自由です。インクが「完成への重圧」を与えるのに対し、鉛筆はいつでも修正できる「失敗しても大丈夫」という安心感を与えました。
この心理的な安全性こそが、彼らが大胆な和声やメロディを紙の上で試すことを可能にし、偉大な「創作」を生み出す土台となりました。
【創作の痕跡】
20世紀の巨匠イゴール・ストラヴィンスキーの楽譜には、まさにその証拠が残っています。彼の楽譜には、何度も書き直し、黒く塗りつぶされた鉛筆の跡が鮮明に残っており、鉛筆を失敗を恐れない「試行錯誤」の道具として使っていたことが分かります。
2.作曲家が直面した筆記具の課題と「鉛筆の品質革命」

天才たちが使っていたのは、単なる「木に黒鉛が入った棒」ではありませんでした。彼らは、複雑で膨大な楽譜を扱う中で、「途中で芯が折れたり、書き味がムラになったりしない、創作の集中を途切れさせない道具」を必要としており、当時の鉛筆の不安定さが創作の技術的な課題となっていたと考えられます。
(1)モーツァルトの時代の品質の限界
モーツァルト(没1791年)が生きた時代は、まだ現代のような硬度を均一に調整できる鉛筆は存在せず、純粋な黒鉛の塊に近い、品質が不安定な筆記具を使っていました。芯が折れやすく、線の濃さも均一にならないため、頻繁に創作の邪魔になっていた可能性が高いです。
(2)コンテ法革命と「プロの鉛筆」の誕生
状況を変えたのが、フランスのニコラ=ジャック・コンテによる「黒鉛と粘土を混ぜて焼き固める製法」(コンテ法、1795年頃)です。
この技術により、鉛筆の硬度(HやB)を安定させることが可能になりました。これにより、作曲家たちは「正確で安定した線」という、それまで手に入らなかった「創作の集中を途切れさせない道具」を使えるようになりました。リストやブラームスといった後続の作曲家たちは、品質の安定したプロ仕様の鉛筆を下書きに使えるようになったのです。
※このコンテの技術は、現代のプロフェッショナルな製図用鉛筆に受け継がれています。建築家やデザイナーだけでなく、思考を精密に記録したい私たちにも、その恩恵は開かれています。ぜひ、書き味と信頼性の高い一本を試してみてください。
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3.手放せなかった「裏の役割」を支えた道具と工夫

鉛筆が「創作の自由」を与えたとしても、それを最大限に活かすためには、鉛筆とセットで使う補助道具と、作曲家たちのプロフェッショナルな工夫が必要でした。これこそが、肖像画に描かれない「裏の役割」を支える重要な要素です。
(1)創造性を支えたパートナー:消しゴムと紙の品質
鉛筆の最大の価値である「消せる」機能を成立させたのは、消しゴムの進化です。19世紀以降にゴム製消しゴムが普及し、楽譜を傷つけずに修正することが可能になりました。
この進化により、作曲家たちは大胆に書き、迷わず消すという、鉛筆だからこそ実現できた創作法を確立しました。また、頻繁な書き込みと消去に耐えうる丈夫な紙も、この創作法を支える重要な要素でした。
※現代の私たちは、(プロが求める)跡を残さない消しゴムや、鉛筆のノリと耐久性に優れた上質なノートを使うことで、当時の天才たちと同じように思考のスピードを維持できます。
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(2)近代化が生んだ効率化:赤鉛筆と色分けの工夫
19世紀後半、オーケストラの編成が複雑化したことに加え、楽譜の出版が大規模になると、単なる「下書き」ではない、効率的な指示のための道具が必要になりました。楽譜が多くの演奏者の手に渡るようになり、指示の正確な伝達が実務上の課題となったからです。
①赤鉛筆(青鉛筆)
- 役割1(確認・校正): 作曲家や出版社の編集者が、楽譜の校正(間違いのチェック)を行う際に、通常の黒い線と明確に区別するために使われました。
- 役割2(演奏指示): また、指揮者が、演奏の解釈を明確にするための書き込み(指揮者が演奏者に伝える具体的な指示、テンポや強弱、音の区切り方など)をスコア(総譜)に赤でマークし、その指示が後の演奏の基準となる公的な役割を担いました。
例えば、グスタフ・マーラーやアルノルト・シェーンベルクといった著名な作曲家たちが、自作の演奏を指揮する際に残した楽譜には、赤鉛筆や青鉛筆による詳細な指示の記録(演奏指示)が残っています。
②色鉛筆
複雑なオーケストラスコアにおいて、楽器のパートごとに色分けをしたり、特定の主題を強調したりするなど、視覚的な整理のために用いられました。これは、多大な情報量を持つ楽譜を、作曲家自身が瞬時に把握し、混乱を防ぐためのプロの工夫でした。
これらの道具は、清書へ至るまでのプロセスを細分化し、天才たちの制作活動を体系的にサポートしていたのです。
※作曲家が細心の注意を払って色を使い分けたように、現代でも高い発色と信頼性を持つ色鉛筆は、アイデアの整理に役立ちます。
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4.まとめ:鉛筆は創造のプロセスそのもの

肖像画に描かれた「ペン」が音楽を世に残す役割だとすれば、描かれなかった「鉛筆」は音楽を生み出す役割を担っていました。
鉛筆が作曲家たちに与えたのは、単なる「消せる道具」ではなく、失敗を恐れない「創造のプロセス」そのものだったと言えます。
次に鉛筆を手に取ったとき、単なるメモ帳の道具ではなく、偉大な才能を支えた「もう一人の主役」の歴史と役割を感じてみてはいかがでしょうか。
以上、「【肖像画に描かれない真実】著名な作曲家たちの「下書き鉛筆」の裏の役割」についてでした。
「Stationery♥Log」(ステーショナリー♡ログ)をご覧いただきありがとうございました♡








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